January 8, 2008

知事の部屋/都民のみなさんへ

知事の部屋/都民のみなさんへ|東京都

確かに、実際的に身に降りかかってこないとなかなか実感できないことなのかもしれない。オーストラリアが大干ばつを機に大きく意識を変えたように。ただ、得られる情報をいろいろつなぎ合わせてみれば、このままでは地球はあと半世紀も持たないかもしれない、と誰もが理解できるはず。このスピードで事態が進行すれば、たった10年後の生活を考えてもひどいものになっている可能性が高い。気候変動そのものだけでなく、全ては繋がっているわけで、それによって引き起こされる問題は数知れない。世界的な水不足、大干ばつ、人口の増加、生物多様性・生態系の変化などは、食糧自給率が異常に低い(39%!)日本にも大きな影響をもたらす。

日本で実感出来る部分で言うと、去年「異常気象」という言葉をたくさん聞いたと思うのだが、この「異常気象」ってのは30年に1度しか起こらない現象のことを指す言葉。これが一年間のうちに数え切れない程発生していたわけで、これはもはや偶発的なものではないと考えるのが自然でしょう。

ひとり一人の「自分くらい、自分だけは」という気持ちがつくりだしてきたこの問題は、解決するにも同様にひとり一人の意識を大きく変えなければならない。「豊かさ」や「幸福」の意味を誤解していた事に気付かないといけない。まわりを見渡してみても実感は薄いかもしれないが、今まさに瀬戸際なのだ。

(↓「ピッチングポイント」は、正確には「ティッピングポイント」)

 みなさん、明けましておめでとうございます。

 新年早々ですね、ちょっと物騒なことを言うみたいですけども、私たち、よほど今年本気になってこの問題に取り組まないと、私たちが生きている舞台である地球そのものが、今年とは言いませんよ、しかし、恐らくこの世紀の半ばも満たずですね、もたないんじゃないかという気が強くします。

 昨年の暮れにバリ島で行われた世界の環境問題の会議ですね、結局有名無実の、何というのか、内容に終わりました。

 環境問題で鋭い指摘をしてきたゴアというクリントン政権での副大統領が、そこでもバリ島の会議が実質的にちっとも進捗しないのは、主に自分の母国であるアメリカのせいだということを、何ていうんでしょうね、釈明ともつかず告白ともつかず、しましたが、まさにそのとおりだと思います。

 これは、何もアメリカ1人の責任だけじゃなくて、結局日本もその肩入れをして、きちっとした数値目標を設定することをやめましたけども、そこまでこぎつけませんでしたが。要するにCO2の削減というと、よくわかるようでわからないんですけど、皆さんの生活の中では電気を節電するということなんですね。これによって電気を供給している発電所の使うエネルギーを出すCO2を減らすということでしょう。

 まあ、他にも車からもCO2は出ますけども、そんなものはたかが知れているんで、私たちが使っているエネルギーを供給する元の機能というものが排出しているCO2が非常に地球温暖化を導いてえらいことになっている、現実になってきたわけですけども。

 まあ、例えばね、私も去年の9月に、沈みつつあるツバルという小さな島国に行きました。

 あれは非常に象徴的な存在でしょうけども、しかし、もっと大きな顕著な問題が起こっているんですね。あれは、小さな国ですから、国そのものが沈んでしまうということになって、えらいこったというけど、誰も本気でそんなもの信じていないし、関心もさしてあるわけじゃない。とにかく、中国は、チベットという全く文化も民族も違う国をめちゃくちゃに併合してしまった。ダライ・ラマは国外へ逃れて、とにかく世界に訴えたけど、ほとんど誰も耳をかさなかった。あの問題について本気になって取り組んだのは、ハリウッドの俳優のギアぐらいじゃないですか。

 ことほどさようにね、ツバルあたりが沈もうが、あまり世界は関心がないんですよ。
ところがね、あちこちでいろんな問題が起こっているんです。
例えばね、北極の氷はですね、今年、夏にですね、53,000平方キロ融けました。だから船が通るようになったんだ。冬ですね、また、寒さが来て戻るだろうと思ったら、なんとその8割くらいでしょうか、47,000平方キロくらいに氷が戻っただけで、実績氷は減ったんですね。ということでいきますと、この世紀の21年先、2028年には北極海の氷ってなくなっちゃうんですよ。これは、えらいことでしょう。

 ところがね、同じような問題があちこち起こっている。前もちょっと申し上げたと思いますけど、私も行ったことのあるスイスのローヌ氷河というきれいな氷河があったんだ。そこにオーバールック、展望台がありましてね、この間、テレビで映っていましたけども、その展望台から見る限り、もう氷河は見えなくなっている。ずっと上に行かないとない。その氷河も1年に1メートルずつ厚さが薄らいでいっている。その水は全部どこへ流れるかというと、下流のローヌ川に流れてですね、場合によっては氾濫を起こすということですが。

 この間も新聞で見まして、なるほどなと思ったけど。私が行ったことがありますヒマラヤの大きな氷河湖があるんです。その南の方にですね、バングラディッシュという国があるんだけど、その一つ前にヒマラヤの山腹にひっかかった形で小さなブータンという王国があります。非常に伝統豊かな小さな国ですけどね。その国はね、最近もその被害にあったんですけど、その間近にある氷河湖がですね、決壊しますとね、まさに地元の人の言葉でいうと、上から津波が降ってくるんです。空から津波が降ってくるんですよ。それはそのままブータンを押し流してね、どこへ行くかっていうと、バングラディッシュ、これは非常に平地の多いデルタ地帯ですよ、世界一の。これがたちまち水没する。

 そうなると世界もちょっと愕然とするんでしょうが、それでもやっぱり他人事でしょうね。

 アメリカは非常に干ばつが進んで山火事が多くなったと思うと、実はその山火事を起こしているすぐ隣の州が、気象現象としてありうることなんだそうですけども、洪水になったりですね異常気象に悩まされてきた。これは恐らく、また、今年も同じ現象で起こると、アメリカ人は、この問題について強い危機意識を持つんでしょうが、まだそこまで行っていませんね。

 ということでね、あのバリ島の会議では、結局アメリカは反対して積極的に対処しようという姿勢を保留しちゃった。あの会議の対応を見ますと、医者達ががやがや集まってね、非常に転移の早い悪性のガンをどうするかってことを、手術をしよう、いや、それはまだ早いとかね、放射線でいいとかね、抗ガン剤を飲まそうとか、いや、そこまで行かなくてもとにかく血清検査をしてあと1年間くらい様子をみようとかね、訳のわからないことをいって、結局ほったらかしにしているわけですよ。

 これが進んでいくと、私はNASAのですね、ジェームズ・ハンセンという有名な学者が言っているように、今世紀末には地球の海水というのは5メートル高くなる。5メートルというのは大変なことですよ、これ。その前の2メートル半でもね、どうなるかっていうと、東京とか上海とかロンドンとかね、ニューヨークもそうですね、海に近い、海に接している、そういう大都市というのは水没します。東京は、まだ三多摩に山がありますからね。しかし、埋め立ての地帯とか海抜ゼロメートルの地帯が結構ありますからね、こういったものは完全に水没する。

 それが起こらないとね、なかなかみんな本気にならないんでしょうけども。ということで、東京都は今度とにかく先んじてもやろうということで、節電を呼びかけてこれを義務化してね、そういう条例を作ろうと思っているんですが。これは恐らく会社という会社は全部反対するでしょう。何といったって、企業は目先の利益を追うのが当たり前ですからね。

 しかし、それで済むことかということを悟るまでには結構時間がかかる。わかった時には、もう遅すぎるという、何ていうんでしょうね、学者に言わせると振り子の限界点を突破する。ピッチングポイントというんだそうですけど、他の言葉でいうとポイント・オブ・ノーリターンですね。取り返しのつかない時代が間もなくやってくる。少なくとも、この5、6年の間に相当なことをしないと私たちは、ポイント・オブ・ノーリターンを過ぎてしまってね、アクセルを踏み忘れてあわててブレーキを踏んでも止まらない自動車に乗ることになる。

 これは、恐らくね、東京都がそういう条例を作ると、非常に摩擦が起こって裁判が起こるかも知れません。しかし、それでも私たち、今、やりませんとね、まあ、みんな、自分が生きている間は大丈夫だと、当分大丈夫だというけど、当分大丈夫でしょうけども、皆さんが死んじゃった後ね、皆さんのお子さんやそのお孫さんやそのお孫さんたちが結婚したら子どもが出来る、そのあたりの世代の頃には、こんなことはわかりきっているのに、なんで先祖は努力しなかったんだという罪を問われることになりかねないという、前代未聞の問題に私たちがまさに直面しているということを、みんな、もうちょっと一緒に考えようじゃないですか。

 「塵も積もれば山となる。」と私は思いますけども、東京だけが完璧な環境行政をやってもね、恐らく、そんなことでは世界は救われないでしょう。しかし、今からね、どうせ地球はだめだといって結論を下すには、これは、やっぱり問題が大きすぎる。

 ということでね、新年早々物騒な話になりましたけども、やっぱり、20年、30年先のことを考えることができるというのは、動物の中で人間だけですから、こういう問題を私たち本気で正面から見据えて取り掛かる必要があるということだけは、一つ皆さん人間としての認識、人間としての責任感でこれを持って頂きたいと思います。

 新年早々物騒な話になりましたけども、東京は東京なりにね、新しいいろんなことを、これからも試みて参りますけども、環境問題に限らず。しかし、それは、やっぱりね、私たちが生活する舞台、生存する舞台の地球あってのことでしょう。そういったものに私たち、一番本質的なまさに哲学の基本的な問題についてね、哲学というのは、存在ということと時間というものは何なのかということを考える学問ですから、まさに、その存在についての本気の取り組みというのを考えざるを得ない、そういう時代になってきたなという気がつくづく致します。

 新年早々、物騒な話をしてごめんなさい。

 でもこれは、私たちの子供のため孫のため、その後の私たちの子孫のために、私たちこそが今本気で考えなきゃいけない問題だと思いますよ。

東京都知事 石原 慎太郎

日時:2008年01月08日 08:21 | カテゴリー:気候変動

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